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第12回 被害想定と災害対応想定

2017年4月静岡新聞掲載広告から転載

静岡大学防災総合センター長・岩田孝仁教授に聞く

「やっぱり一元的に国家として災害対応できる仕組みを作らないと、今までみたいに分散した状況じゃマズイと思う。だって首都直下地震や南海トラフ巨大地震など、多くの被害想定が出ていますよね。しかし、これに対応できる仕組みや対応の想定がない」との言葉が印象に残った。

防災システムの標準化と共同運用

本連載の中でも述べてきたことだが、災害対応の標準化や防災システムの共同利用の必要性に通じるものである。  

  • 岩田孝仁教授とのインタビューの様子

例えば、各種の防災システムは、予算の制約上、開発から維持管理まで各自治体で個別に予算を確保し、運用することは難しい。しかも、開発したシステムは、開発した自治体しか使えないのであれば、本番で有効に機能しない。相互応援協定など外部からの応援を期待していれば、なおさら他の組織と同じシステムを使うことが必要であるが、外部の応援職員と一緒にシステムを操作する訓練などやっていないのがほとんどである。

研究成果の社会実装

防災システムの開発など、各種研究プロジェクトでは、社会実装を念頭においたものが多いが、「多くのものが地図を作るアプリ開発になっている。その検証と称して地域住民を集めて、操作してもらい、何となく一つの実験ができたという研究発表が多い。しかし、これでは標準化や一元的な情報収集などの仕組みを構築するには至らないのではないか」という。確かに、私は国土地理院の防災アプリの審査委員を務めたことがあるが、アプリ全体の開発ロードマップがない中でそれぞれが分散している。
研究成果は、社会実装が大きなテーマであるが、社会に定着するまでには大きなハードルがある。最終的に、研究成果は行政に託さないといけないものが多いが、そうすると沈滞化していく可能性もある。研究成果が建築・土木分野のように設計基準や指針に落とし込めれば、社会に未来永劫(えいごう)に残っていくが、防災分野は基準や指針が無く、ガイドラインという曖昧(あいまい)なものに留まることが多く、実効性に欠ける。  
阪神・淡路大震災の時に、活断層法を作るべきだという議論があったが、結局、何も出来ずに20年が経過した。確かに、静岡新聞データベースplus日経テレコンで「活断層法」を検索してみると、静岡新聞では該当せず、日本経済新聞において2件の記事がヒットする程度であり、被害抑止に直結する制度設計の議論が回避されているようにも感じる。

災害対応の“トレセン”の重要性と必要性

わが国では、米国のICS(Incident Command System)についての議論は時々あるが、米国など各国の実践的な訓練プログラムや訓練施設については、議論が開始された状況ではないだろうか。
静岡県では図上訓練、DIG(Disaster Imagination Game)やHUG(Hinanzyo Unei Game)など継続的に行われているが、これに加え総合的な訓練・研修プログラムを受けられる本格的な災害対応トレーニングセンター(トレセン)を建設・運営することも一案である。トレセンに各種の防災システムを導入し訓練の中で使うことで、結果として標準的なものが構築され、全国的に認知される。実際に災害が起これば、トレセンで訓練 した使い慣れたシステムをいつでも、どこでも、誰でも共同利用できるため、情報共有やクライシスコミュニケーションが円滑となる。  
潜在的なトレセンの訓練対象者は、全国の約12万人の防災士、自主防災組織(県内に約5,000団体)、各種ボランティア団体、企業の防災担当者、国の職員、地方公共団体の防災担当者などが考えられ、災害対応のプロフェッショナルとして養成する。  
ちなみに、私が2016年8月イタリア中部で発生した地震被害調査において現地で伺った話では、ボランティアは30時間の講習を事前に受け、建物罹災調査は建築士や技術者など研修を受けた5,000名が事前に登録されているなど、事前の研修と登録制度に基づく災害現場への配置がなされている。  
わが国では、研修・講座などの開設、全国の防災センターや消防学校などの体験学習は多くあるが、トレセンで総合的な訓練を受けたプロの育成が必要ではないだろうか。静岡県は、防災先進県であり自衛隊の協力も得ることで、観光や集客力を兼ねそろえた本格的なトレセンの実現が考えられる。

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