大規模災害にマイナンバーは有効
被害が小さく局所的な災害であれば、わざわざマイナンバーを使うメリットは低い。氏名・生年月日程度で十分である。しかし、大規模災害の場合には別である。
2011年の東日本大震災では、岩手県大槌町など行政機能が喪失したところでは、他の行政機関がこれに代わった。大規模災害では、単一の自治体による自己完結型の対応では限界があり、連携・共有型による対応が必要である。この場合、マイナンバーは行政の境界線を超えても被災者に固有なものであり、市町村を超えた被災者支援を行う場合には効果を発揮する。
行政は、被災者への支援サービスの提供状況を被災者台帳などで管理するが、税の減免や各種行政手続きが煩雑(多様、長期間)になる場合には、マイナンバーは有効である。これは行政と被災者ともに有効である。行政は一元的に被災者へのサービス内容を把握できるため窓口のワンストップ化を効果的に実施できる。一方、被災者にとっても行政が一元的にサービス内容を把握していれば、受けられる支援内容を網羅的に把握できるため、行政サービスを抜け漏れなく受けられるようになる。
マイナンバーで安否確認
現状、災害時のマイナンバーの利用は、被災者生活再建支援金の支給や被災者台帳の作成で認められている。しかし、これは発災直後の避難、安否確認、避難所生活、各種行政支援の手続き、仮設住宅の生活、災害公営住宅の生活など、災害対応の全体工程のごく一部であり、発災直後の応急期から復旧・復興期までの時間フェーズの一断面に過ぎない。マイナンバーを有効活用することで、災害対応全体を大幅に改善できる可能性がある。
応急期の安否確認からマイナンバーを有効活用することで初動期の混乱は大幅に改善され、後工程の効率化も図られる。同時に、マイナンバーが防災上の効果を発揮するためには、災害後の対応を効果的にするとともに、どのように被害抑止や軽減に貢献できるのかを考えることが重要である。
避難所情報共有システム を開発
東京大学生産技術研究所(東京都目黒区)の沼田研究室は、マイナンバー“も”使い、災害時の避難者情報を管理する避難所情報共有システムCOCOA(ココア)を開発した。これは各避難所に来た住民のマイナンバーなどをタブレット型端末に入力することで避難者情報を一元的に管理できる。複数の避難所が同時に開設される災害時には、各避難所の状況を把握することは容易ではないが、COCOAは各避難所の情報を収集し、災害対策本部で可視化することで行政職員に対し適切な意思決定を支援する。COCOAに未入力の住民をリストアップすることで、安否不明者も絞り込めるため、警察・消防などが情報共有することで行方不明者の捜索活動も効果的に実施できる。COCOAは、宮城県石巻市の総合防災訓練や東京大学生産技術研究所の防災訓練で実証実験をしてその有効性を確認している。
最大の特徴は、全国14万個所以上の避難施設がデータベース化されているので、いつでも、どこでも、どこからでも、どのような災害であっても、避難所別の避難者数などの情報を一元的にリアルタイムに収集・分析・可視化できる。可視化される情報は、行政の境界を超えた被災地全体の状況として表示され、都道府県や国とも情報共有でき、被災地全体の状況認識を統一できる。
マイナンバーのような全国共通のIDを使うことで、災害対応システムも全国的な標準システムとして利用できるため、自治体の財政状況の格差による災害関連システムの整備格差も解消できる。
災害対応システムの共同利用
現状では、各自治体で導入されている災害対応システムは個別的であるため、自治体間で整合が取れていないものが多い。
災害対応システムは、自己完結型ではなく、共有型・連携型として複数の自治体で共同運用し、維持費の削減、知見の集約、最新版の常時アップデートにより、いつでも、どこでも、どこからでも、その時点で最新のシステムを利用できるようにする環境が必要である。
「静岡新聞データベースplus日経テレコン」で「マイナンバー+防災」を検索すると51件が該当する。この中で、2015年9月30日付静岡新聞朝刊に掲載された「情報管理の強化へ 行政サービスをクラウド化-11月から小山町」の記事によると、「災害対策や情報セキュリティー対策が強化され、情報管理の安全性や継続性が確保できる。町によると、他市町と共同利用することで低コストで運用できる」という。