防災意識のある住民の育成
行政に頼った防災活動には限界がある。自分や家族の命を守るのは自分自身である。地震で自分の家族を失った場合、悲しむのは自分自身であり、泣いた後では手遅れである。従って、住民自身による防災活動への参画は重要であり、地域では住民に対する防災意識の啓発が必要になる。この手法の一つとして防災訓練がある。
防災訓練の28年間の動向
「静岡新聞データベースplus日経テレコン」にある1988年からの防災訓練を含む記事数の年別変化を見ると(図1)、大きな地震災害後、記事数は多くなるが、2、3年経過すると頭打ちとなり、その後減少する。再び大きな災害があると増加、頭打ち、減少を繰り返す。具体的には、1995年の兵庫県南部地震後、350件もの記事数に急増し、2000年の鳥取県西部地震後、再び増加するが、2005年から減少する。しかし、2009年の駿河湾沖の地震では静岡県内で発生したにも関わらず防災訓練に関する記事数の増加は見られない。
様々な事例の情報共有が重要
市町別の防災訓練の関連記事数を見ると(図2)、静岡市と浜松市が多く、沼津市、焼津市、湖西市、磐田市、島田市と続く。これは人口が多いほど多く取り上げられているのだろうか。しかし、人口と記事数との関係を見ると、同じ規模の市町であっても記事として取り上げられている地域に差があることが分かる。
15万人規模の市町では、例えば焼津市は富士宮市や藤枝市に比べ、約2倍の記事数である。5万人規模の市町では例えば湖西市と裾野市では3倍弱の差がある。では想定される被害との関係はどうだろうか。
静岡県第4次地震被害想定における被害量(レベル2の地震、津波 南海トラフ巨大地震)との関係を見ると、想定全壊建物数と防災訓練の関連記事数の相関は低い(図3)。例えば、想定全壊建物数が1万8千棟前後でほぼ変わらない焼津市と藤枝市も2倍以上の差がある。また全壊建物数の想定が5千棟前後の沼津市と下田市では記事数に大きな差がある。逆に、記事数が161件と同じである三島市と藤枝市を見ると、全壊建物の想定数は245棟と18,979棟であり、約75倍の差があるが記事数は同じである。
自治体の規模に関わらず、想定されている被害量が多い市町を優先的に取り上げ、その地域の状況を県内で積極的に共有することが重要である。
防災訓練による事前準備の重要性の認識
防災訓練は、何が地域の最重要課題なのかを明らかにし、これを解決するために、各主体の役割を再確認するものである。それぞれの地域で実施されている県民の防災意識を啓発する継続的な取り組みは今後も必要になる。データベースの情報を参考にするのも一つの方法だ。そして、防災訓練の最大の効果は、明らかになった課題を解決することで、想定されている被害量がどれだけ抑止・軽減できるのかを認識し、事前の防災対策を推進することである。