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ホーム>デジタル時代のビジネスと社会>第8回 「未だ創業初日」(その2)

第8回 「未だ創業初日」(その2) height=

2020年3月静岡新聞掲載広告から転載

原点を再認識したソニー

 第7回「未だ創業初日」(その1)で紹介したように、アマゾンと同じように、Day Oneの意義を再認識したのがソニーだった。ソニーは1946年(昭和21年)5月、資本金19万円、従業員数約20名の小さな会社「東京通信工業」としてスタートした。それに先立つ1946年(昭和21年)1月、創業者の井深大は新会社を発足させるにあたり、設立の目的を明らかにした設立趣意書を、自ら筆を執って記した。それは戦後の廃墟の中から、自分が中心になって、思いを同じくする仲間と共についに会社を立ち上げるに至った、井深の決意表明でもあった。
 「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」 「極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎、量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。また、単に電気、機械等の形式的分類は避け、その両者を統合せるがごとき、他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行う」
 このように記された東京通信工業設立趣意書には、ソニースピリッツが溢れていた。それを失ってしまった所にソニーの低迷の要因の一つがある。だから原点(Day One)を再認識しよう。それがソニーの決意だった。当時の平井一夫社長は、東京通信工業は設立趣意書を何度も読み直したという。

Sony’s Purpose(存在意義)

ソニーの企業サイトでは、Sony’s Purpose(存在意義)※を伝えるビデオがアップロードされている。 それを見ると、原点を忘れずに未来に羽ばたこうとしている新しいソニーの思いに感銘を受ける。3分のビデオでは、「私たちの歴史は、1946年にさかのぼる。全てはファウンダー2人の夢から始まった。技術を通じて、人々の生活を豊かにしたい。つねに一歩先に行くために、挑戦を続けてきた。好奇心が私たちの原動力となった。」というメッセージが流されている。そこにソニーの原点があった。今やソニーは革新的なエレクトロニクス商品に加えて、圧倒的なエンタテインメント、ビデオゲーム、金融サービスなど、幅広い事業を展開するが、その原点は不変だった。「歴史に誇りを持ち、今この時間に情熱を感じ、未来を生み出していく。WE ARE SONY」という力強いメッセージ。そこにはもう迷わないというソニー経営者の強い信念を感じるのである。

「平成、失敗の本質」

失敗の本質  ソニーは過去を真摯に振り返り、自社の何がいけなかったのか、自己分析を重ね、成功と失敗の本質的な批判的検証を行った。このような客観的な自己分析は、他社も是非とも行うべきである。 過去の歴史の教えるところは、優秀企業でも衰退する、革新者は時代の大きな転換期に競争優位を失うといったことである。それータに基づいて明かにしたのが、クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(増補改訂版、翔泳社、2001年)であるし、わが国には名著、『失敗の本質』(戸部良一、寺本義也、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎による)がある。(写真は1991年初版の中公文庫)このような研究が教えるのは、優秀企業の衰退は、時代が変わったにもかかわらず、過去の成功体験を、客観的な分析なくして新しい時代に適応してしまったこと、あるいは変化に翻弄されて、自社の本来あるべき姿を見失ってしまったことに起因しているということである。

 令和2年の今年、ソニーが行ったように、過去を真摯に振り返り、自社の何がいけなかったのか、自己分析を重ね、成功と失敗の本質的な批判的検証を日本企業界全体で行うべきである。平成の時代は、残念ながら、日本経済全体を俯瞰(ふかん)すると、失敗の時代であった。昭和の時代に栄華を誇った日本企業の多くは、平成に入ると、とりわけバブル崩壊後は国際的な競争力を失い、失われた時代を過ごすことになった。倒産して存在しなくなった企業もあれば、合併や事業売却等を通じて大きくその姿を変えた企業も多かった。とりわけソニーが属したエレクトロニクス産業は壊滅的な打撃を受けた。一時はソニーを上回ったとまで言われたシャープ。世界の亀山モデルとして日本産業界の誇りとなったシャープは、今や台湾の鴻海精密工業の傘下に入って再建を図っている。ソニーのライバルであったパナソニックにもさえはない。デジタル・トランスフォーメーションをリードしているのはGAFAであり、日本企業は翻弄されている。エレクトロニクス産業の低迷とは対照的に、平成時代にも世界的な競争優位を維持した自動車産業も、今の状況は厳しい。MaaS、CASEの時代に、ガソリン時代の覇者、日本の自動車メーカーにかつての勢いはない。
だからこそ、今、日本企業の何がいけなかったのか、何が間違っていたのかを分析し、令和の時代に、日本経済に再び輝きを取り戻させないといけない。まさに「平成、失敗の本質」の分析が、経営学においては令和2年の重要なアジェンダになると考えている。

※Sony’s Purpose(存在意義)
クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。

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