広報担当者が
知っておかなければならない
著作権問題

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広報担当者が知っておかなければならない著作権問題

目次

・なぜ、広報担当者として著作権を知っておくべきなのでしょうか?
・そもそも著作権とはどんな権利なのでしょうか?
・例えば著作物とはどのようなものを指しますか?
・具体的にどのようなことを広報担当者として気を付けるべきなのでしょうか?
・著作権侵害が発覚してしまった場合、どのような社会的損害があるのでしょうか。
・著作権侵害をしないために気を付けるべきポイントは何ですか?
・事前の対応策には他にどのようなものがあるか教えてください。
・著作権に課題感がある広報の皆さまへメッセージ

インターネットでの情報入手の利便性が向上している昨今、著作権に関する知識、理解がこれまで以上に求められています。WEB上から取得した画像や文章、記事などを、許諾を得ないまま転用し、何かのきっかけで著作権者に無断使用として問い合わせを受け、トラブルに発展するケースがないとも言えません。
広報業務をご担当されている皆様は、コーポレートサイトやプレスリリースなどを通じた外部配信、そして社内に情報共有を行う業務を他部署よりも多く行っているため、制作したコンテンツが多くの方の目に触れます。そのため、コンプライアンス順守の観点からも、著作権に関する考慮が特に求められていると言えます。
そこで、今回は著作権に関する講演を数多く担当し、文化庁でも著作権法の改正などに取り組まれた経験をお持ちの池村聡弁護士より、広報担当者が知っておくべき著作権の基礎知識、外部発信などの業務で、具体的に気を付けるべきポイント、侵害を避けるための勘所についてお伺いしました。

三浦法律事務所 弁護士 池村 聡 氏
2001年に弁護士登録(第二東京弁護士会)。マックス法律事務所(現:森・濱田松本法律事務所)を経て、2019年に三浦法律事務所を共同で設立。弁護士登録後、一貫して著作権を始めとする知的財産関連業務、エンターテインメント関連業務、IT関連業務に従事しており、2009年~2012年には文化庁著作権課に出向し、著作権法の改正等を担当した経験を有する。現在は、文化審議会著作権分科会法制度小委員会の委員として法改正の議論に参加している。
「はじめての著作権法」(日経文庫)など著作権に関する著書論文多数。
なぜ、広報担当者として著作権を知っておくべきなのでしょうか?
池村先生:最近、「著作権」という言葉をニュースなどで聞く機会が増えたのではないかと思います。これは、我々の生活にとって「著作権」が身近なものになったことを意味しますが、広報業務にとってはどうでしょうか。この点、音楽業界、映画業界、出版業界、ソフトウェア業界といった、いわゆる「コンテンツ業界」にとって著作権は、正に「飯の種」であり、日々の業務にも密接に関係してきますし、そうした業界で働かれている人たちは、一般に著作権意識が高いといえます。他方、そうでない業界に属する方々にとって著作権は、そう身近なものとして認識されておらず、著作権に対する知識も不十分であるように思えます。
しかしながら、弁護士として日々様々な企業から舞い込む著作権トラブルの相談を通じて感じることは、現代社会にあって、著作権の問題は、もはやコンテンツ業界だけでなく、およそ全ての企業にとって身近なものだということです。そして、とりわけ「広報業務」と著作権とは、以下に見るとおり、非常に密接な関係にあるといえます。
そもそも著作権とはどんな権利なのでしょうか?
池村先生:著作権とは、「『著作物』を無断で『利用』されない権利」です。「『著作物』を無断で『利用』されたら文句を言える権利」と言い換えてもいいでしょう。例えば、「漫画」は著作物ですが、漫画をインターネット配信という形で利用するためには、漫画の著作権を持つ漫画家からOKを貰わなければなりませんし、無断で配信した場合、漫画の著作権を侵害することになります。この場合、漫画家は、無断配信を行った者に対して、配信の停止や損害賠償の支払いを請求することができますし、著作権侵害は立派な犯罪行為ですので、無断配信を行った者は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金に処せられる可能性があります。さらに、企業の従業員が業務に関連して著作権侵害を行った場合は、企業が3億円以下の罰金に処せられる可能性もあります。
このように、著作権という権利は、なかなかに強力で怖い権利ですし、さらには、原則として著作者の死後70年間という長い期間保護される権利ですので、その意味でも強い権利といえます。従って、日常業務や日常生活において、うっかり侵害しないように気を付ける必要があります。
例えば著作物とはどのようなものを指しますか?
池村先生:著作権という権利は「著作物」を保護する権利であり、先ほどは「漫画」を著作物の例として取り上げました。漫画以外には、音楽作品、映画作品、文芸作品、アート作品、ソフトウェアといったものが典型的な著作物ですが、これらは、手間やお金をかけて作られたコンテンツであり、正に「コンテンツ業界」において取引対象となるものです。他方で、著作権法は、こうした「お金を生み出すコンテンツ」だけを著作物だとして保護するものではありません。ごくごく短い文章(あいさつ文や定型文など)のような、単純でありふれたものは著作物には当たらないとされるものの、著作物のハードルはそう高いものではなく、スマホで何気なく撮影した写真や子供が描いたイラスト、SNS等に投稿したちょっとした文章などは、「著作物」として著作権の保護対象となり得ます。例えば、裁判例では、Twitter上のツイート(「アナタって僕にもう訴訟を起こされてアウトなのに全く危機感無くて心の底からバカだと思いますけど、全く心配はしません。アナタの自業自得ですから。」)や写真1(ネット上に掲載されていた商品写真)がいずれも著作物に当たると判断され、無断利用は著作権侵害であるとされています。


写真1

著作権法には、「著作物」の定義規定が一応あるものの、「●文字以上の文章」といった明確な要件はなく、最終的には裁判所が判断します。そのため、個々の文章や写真等につき、結論の予測が難しい場合も少なくありません。従って、実務上は、短い文章や単純な写真等についても、上記のような裁判例がある以上、著作物であるという前提で行動した方が安全です。このように、我々の身の周りは著作物で溢れており、とりわけインターネット上は著作物だらけで足の踏み場もない状況といえます。
具体的にどのようなことを広報担当者として気を付けるべきなのでしょうか?
池村先生:ある画像なり文章なりが著作物に当たる場合、これを著作権者に無断で「利用」すると、原則として著作権を侵害することになります。そして、無断で行ってはならない「利用」の内容については、著作権法が定めており、例えば、「複製」(コピー)や「公衆送信」(インターネット配信等)、「公衆相手の上映、譲渡、貸与」、「翻訳」といったものがこれに当たります。
従って、写真やテキストが著作物に該当する場合、これをSNSに投稿したり、社内資料や広報資料、プレスリリース等に掲載して配布やWEB掲載したり、株主総会等におけるプレゼン資料に掲載して上映したりするためには、無断利用が許される例外規定が適用されない限りは、著作権者から許可を得る必要がありますし、無断利用をすると著作権侵害になってしまいます。さらに、新聞記事も著作物ですので、現物を回し読みするのであれば問題ありませんが、自社や自社が属する業界の関連記事等をコピーしたり社内ポータルサイトに掲載したりすることは、原則として著作権者の許可が必要です。
また、日常用語で「複製」とは、「同一のものを機械的に再現する」ことを意味することが多いと思いますが、著作権法上は、「よく似たものを作成する」こと(俗にいう「パクリ」)も含まれます。一例として、裁判所は、右の作品は左の作品の著作権侵害であると判断しています。

複製とみなされる著作権侵害の例

したがって、「そっくり同じじゃなければ問題ない」という誤解が著作権侵害を招くことや、外部のイラストレーターに参考資料を渡し、「これと似たものを作って」といった形で発注した結果、著作権侵害が生じることも珍しくありません。
広報業務が自社のオリジナルコンテンツだけで完結すれば著作権について気にする必要はありませんが、現実問題そのようなことはあり得ませんので、広報業務を遂行するに際しては、常に著作権の問題に気を配る必要があるといえます。

著作権侵害が発覚してしまった場合、どのような社会的損害があるのでしょうか。
池村先生:著作権侵害の中には、「バレなければいいし、普通はバレない。」というものが含まれるのも事実です。誰も見ていない道路で信号無視をしたり、速度オーバーをしたりするのと似ているのかもしれません。
しかし、他方で、著作権侵害は、テクノロジーの発展等を背景にかつてと比べて格段に発覚しやすくなっており、企業のサイトやSNS等における著作権侵害が発見され、それがインターネット上で晒されることも少なくありません。また、内部告発による著作権侵害の発覚も多くなっており、職場環境や人事待遇に不満をもった従業員が腹いせ的に社内の著作権侵害事案を告発するといったケースや内部監査で著作権侵害が発覚したケースも散見されます。加えて、営業資料や広報資料等が「パクり」であるとして、ライバル企業との間でトラブルに発展するといったケースも存在し、総じて著作権トラブルは増加していることは間違いないでしょう。
一例として、3.で見た新聞記事の社内利用に関連して、2020年10月に、環境省は新聞、雑誌合計91媒体の記事を無断でクリッピングし、多数の職員にメール送信していたことを発表し、使用料を支払うとともに、著作権についての教育を徹底するとのコメントを発表しています。
著作権侵害をしないために気を付けるべきポイントは何ですか?
池村先生:私は「著作権に関する最低限の基礎知識を従業員に習得させるとともに、気軽に相談できる体制を構築する」ことが重要であると考えています。基礎知識の習得は、著作権侵害を未然に防ぐという観点から重要であることはいうまでもありませんが、著作権のことを必要以上に気にするあまり、広報業務における自由な発想が阻害されてしまっては不健全ですので、不必要に著作物の利用を委縮させないという観点からも重要になってきます。字数の都合上、本稿で触れることはできませんが、著作権法には、「こういう場合は著作権者に無断で利用してもよい」という例外規定が色々と存在しますので、こうした例外規定をうまく活用することにより、「なんでもかんでも著作権者の許可を取らなければ利用できない」という状況はある程度回避することができます。
また、著作権の問題は、専門的な知識が不可欠であり、全ての従業員に正確な判断を期待することは酷な話です。専門的な判断に関しては法務部や知的財産部といった部署や外部の顧問弁護士等に任せ、それ以外の従業員には、まずは最低限の基礎知識を習得してもらい、著作権意識を芽生えさせれば、それで十分です。これにより、「これって著作権的に問題あるのかもしれない」という疑問が生じるようになり、法務部等に相談をし、解決を図るというフローが構築されていくようになりますし、こうした積み重ねにより、著作権意識が全社的に高まっていくことが期待できます。そして、そのためには、気軽に著作権のことが相談できる体制を構築することが重要になってきます。
事前の対応策には他にどのようなものがあるか教えてください。
池村先生:著作権侵害を防ぐもう一つの方法は、著作物の利用について、適切な契約を締結することです。これにより、契約の範囲内で、著作権侵害のことを気にせず安心して著作物の利用をすることが可能になります。
この点、5.で述べた例外規定には、私的に使用するためであれば著作物を自由に複製してもよいという規定があり(著作権法30条1項)、我々はこの規定のお蔭で日常的に新聞や雑誌をコピーしたり、テレビ番組を録画したりすることにつき、著作権者から事前に許可を得る必要はありません。しかし、この例外規定はあくまで「私的」な利用についてのみ適用されるものであり、例えば、3.で見た新聞記事の社内利用のような、業務上の利用には適用されません。そのため、こうした利用を適法に行うためには、信頼できる業者との間で、それ専用の契約を締結する必要があります。
最後に、著作権に課題感がある広報の皆さまへメッセージをお願い致します。
池村先生:人によっては、著作権は面倒なものであり、著作権法のせいで日々の業務に色々と不便が生じるというネガティブな印象を持っているかもしれません。しかし、そういうネガティブな思考ではなく、「こうすれば自由利用できる」、「こういう契約を締結すれば安心して利用ができる」といったポジティブな思考を心がけることが、著作権とうまく付き合うためのコツといえます。また、著作物を利用する場合は、その著作物を創作したクリエイターのことを思い、クリエイターに対するリスペクトの心を常に忘れないことも重要です。

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