【いま、広報の基本を考える】第2回/全5回
メディアが欲しいのは「社内の引き出し」
~「社内情報の把握」が、メディア対応の質を決定づける

Column

【いま、広報の基本を考える】第2回 メディアが欲しいのは「社内の引き出し」 ~「社内情報の把握」が、メディア対応の質を決定づける

2026年4月 読了時間:3分

企業を取り巻く情報環境が大きく変化するなかで、広報に求められる役割も高度化しています。情報の発信手段は多様化し、拡散速度は増し、広報はこれまで以上に戦略的な判断を求められる存在となりました。

だからこそ、あらためて立ち返りたいのが広報の「基本」です。

派手な手法や最新トレンドに目を奪われがちな時代だからこそ、広報という仕事の土台にある考え方や姿勢を見つめ直すことには、確かな意味があるのではないでしょうか。「いま、広報の基本を考える」とした本記事では、メディアや現場の視点を交えながら、広報という仕事の原点をあらためて捉え直します。今回は、メディアライターの視点から、メディア対応(アウター)の質を左右する社内情報の把握(インナー)の重要性について紐解いていきます。

相川いずみ

ビジネス誌やPC/IT誌から、官公庁広報、企業のオウンドメディアまで幅広く執筆するメディアライター兼編集者。数多くの取材現場で広報担当者と対峙した経験を持つ。広報とメディアの間に横たわる視点のズレを埋めるべく、双方の視点に立った執筆を心がけている。

目次

インナーコミュニケーションが広報におけるメディア対応を左右する

プレスリリースを発信したところで満足していませんか?プレスリリースは、あくまで製品やサービスの基本情報という位置付けです。確かにリリース直後は、速報性という観点から、この基本情報を詳細に記すことで記事化される機会が多いのも事実です。

しかし、その後の個別取材において、いかにメディアに合わせて情報をアレンジできるかが、真の広報の腕の見せどころになります。

メディア側にとって、相手の会社の社内事情などは分かりません。社内対応に時間がかかったり、取材したい担当者がつかまりにくかったりするだけで、「この会社は取材に対して、あまり積極的ではない」というイメージをもたれる可能性があります。

メディアも「急いで記事化したいからこのスケジュールで!」と無茶ぶりをすることも多くありますし、そこはお互い様の部分もあります。しかし、広報側の社内調整に時間がかかる状態が何度も続くと、仮に面白いネタがあっても、メディアライターの選択肢から真っ先に外されてしまう。これこそが目に見えない極めて大きな損失です。

一方、広報がメディアの特性に合わせて、迅速に適任者をアテンドし記事の独自性を引き出すことができれば、プレスリリースからさらに踏み込んだ記事化につながります。

しかし、社内の人材の強みや適性を把握していなければ、記事にあった最適な人選はできません。つまり、日ごろからの社内での情報共有や関係構築といったインナーコミュニケーションが重要な基盤となり、広報におけるメディア対応の実行力を支えているのです。


メディアが欲する「企業の活きた情報」とは何を指しているのか?

では、メディアが本当に求めている「活きた情報」とは何でしょうか。簡単に言えば、公式発表の枠を超えた情報ですが、メディアライターの視点からいくつかのポイントがあります。

まず、世の中のトレンドや社会課題と自社の活動がどう結びついているかという文脈で語ることができるような情報の社会的背景です。広報担当者が社会的背景まできちんと理解しているかどうかは話をすれば一目瞭然です。メディアは判で押したような優等生の返事などは求めていません。広報担当者が「実は今、業界でこういう動きがありまして……」と教えてくれた一言は、メディアライターがデスクを説得するための強力な武器になります。

そして2つ目のポイントは、人間味あるエピソードになっているかどうかです。開発の苦労話や失敗談、現場社員の想いなど、プレスリリースには書かれていない、あるいは書けなかったストーリーこそ、メディアが欲する独自性の宝庫です。読者が自分事として共感できる人間味があると「もっと深掘りして聞いてみたい」「このストーリーを読者に見せたい」といった記事化の大きなきっかけになります。

3つ目は、情報に独自性と深さがあるかという点です。記事にはエビデンスが求められますが、メディアで調査する内容には限界があります。企業が持つ独自の調査結果や、現場の数字に基づいた一次情報は、メディアにとって非常に魅力的な材料です。

ただし、これらの情報をメディアに提供するには、広報担当者自身が製品はもちろん、社内の実情をも深く把握していなければなりません。メディアライターが「ここを掘り下げたい」と質問を投げかけても、社内の事情を把握していない広報担当者から「リリースに書いてある通りです」といった表面的な受け答えしか返ってこないケースを、私自身も過去に経験しています。ここに、日頃から社内の一次情報をとることへの重要性があります。

インナーコミュニケーションが情報の解像度を高める

メディアライターとして、「この人はデキる広報だ」と感じたエピソードを紹介します。プレスリリースをきっかけに「この記事をもっと掘り下げたい」と広報担当者に相談した際、「それなら開発部の〇〇さんが詳しいです」と、すぐに取材につながる部署や担当者を紹介してくれる。あるいは、「実は現場でこんなエピソードがありました」と、社内の引き出しをサッと開けて、次々と提案してくださる方がいます。そのような対応を受けると、メディア側もより魅力的な記事を書こうという意欲が湧きますし、以降も「あの広報さんに相談すれば良い記事が書けそうだ」と信頼を寄せるようになります。

即座にこうした提案ができる広報担当者は、外部のメディアから見ても、社内ネットワークの構築や現場の最新情報のキャッチアップ、現場社員からの信頼の醸成など、社内活動において積極的な働きかけを行っているのだろうなと透けて見えます。

普段から社内でコミュニケーションを図り、社員の人柄や隠れたエピソードを蓄積しているからこそ、メディアからの急な要望にも的確に応えることができる、豊富な引き出しを持つことができるのでしょう。

「デキる広報」に共通する情報のアレンジ技術

さらに一歩進んだ広報担当者は、社内情報をメディア向けにアレンジして、メディアへのアピールを試みます。

例えば、メディアやライターの要望や意図から逆算した最適な社内情報の提供です。メディア側としては記事の材料が少なくて書けないということはあっても、多すぎて困ることはありません。

また、専門用語や社内特有の言葉を、メディアライターや読者が理解しやすい言葉に説明し直す技術も重要です。企業や製品の持つこだわりや文化も大切にしつつ、いかに普遍的な言葉でその真髄を理解してもらえるか。いわば、翻訳が上手な広報も重宝されます。

さらに、「製品×働き方」「技術×環境問題」など、複数の社内情報やトレンドを組み合わせて、新しい切り口を提案するアプローチもメディアには有効です。俯瞰的な視点で自社を広く深く知る広報だからこそできる、強力な武器になります。

メディアへの露出を成功させたいのであれば、まずは社内を歩き回り、情報を仕入れることから始めてみてください。その行動が、結果としてメディア対応の質を飛躍的に向上させ、さらにはメディアとの強固な信頼関係にも結びついていきます。

このように、インナーからアウターへの流れを生み出す編集力は、その後の広報としてのキャリアアップにもつながります。さらには次世代リーダーへの道も、こうした日々の積み重ねの先に見えてくるものではないでしょうか。