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ホーム>デジタル時代のビジネスと社会>第11回 DXの実現を阻む組織のもつれ

第11回 DXの実現を阻む組織のもつれ

2021年3月静岡新聞掲載広告から転載

DXへの第一歩はDigitizationから

DX(Digital Transformation)は変革である。変革は一朝一夕に成り立つものではない。したがって、まず自社のPurpose(目的)に立ち返り、自社にしかできない未来ビジョンを考え、それをデジタル・テクノロジーを駆使して実現するというプロセスで、なおかつ長期的な展望をもって、変革を進めなければならない。もちろん、未来ビジョンは簡単には実現しないので、「小さな勝利を繰り返す」(Repeat Small Wins)という精神で、デジタル化の活用領域を広げ、未来への旅路を歩むことが大切である。最初は既存業務におけるデジタル・テクノロジーの活用から始まるだろう。それこそ、いわゆる「Digitization」であり、その成果として業務効率性が向上するだろう。Digitizationの典型例が、デジタル技術で業務効率を上げるRPA(Robotic Process Automation)である。どちらかと言えばDigitizationは内向きで、自社のパフォーマンス、つまり収益性の向上がアウトプットである。

Digitalizationでより高価な価値を提供する

しかし、デジタル・テクノロジーは外向きに、とりわけ顧客のために活用されないといけない。それがデジタル化活用の次のステップである。そのために企業は、改めて自社のPurposeと未来ビジョン、強みを考えて、顧客に提供する価値を決めないといけない。デジタル・テクノロジーを駆使して顧客に提供される価値は、IMD(国際経営開発研究所)の「対デジタルディスラプター戦略」が示すように、「コストの価値」、あるいは「経験の価値」、「プラットフォームの価値」として提供される。そこで、この中のどの価値提供を目指すのか、「苦痛(Customer’s pain)」を解消したいと考える顧客の立場に立って、決定しないといけない。その鍵は、自らが顧客になり切ること、つまり顧客の苦痛に共感(Empathy)し、顧客の苦痛を自分自身の苦痛と捉え、それをなんとしてでも取り除こうとする徹底した顧客志向である。それをAmazonのジェフ・ベゾスは「とりつかれたように顧客のことを考えること」(Customer obsession)と呼んでいる。
 より高い価値を提供する中で業務は革新し、新しいビジネスモデルが生み出され、企業パートナーとの関係も変化し、新しいエコシステムの構築へとつながる。その時、まさにデジタル・テクノロジーを使ったイノベーション、「Digitalization」が実現するだろう。そうすると、事業効率性を超えた新しい価値の創造が実現する。しかし、それはすぐにDX、つまり全社的な変革につなげていかないと、持続的な成功は実現し得ない。

DXを阻む組織のもつれ

DigitalizationとDXとの本質的な違いは、後者が組織活動の全般に渡る変革を必要とすることである。企業活動の本質は、企業に関わるさまざまな要素が連動している。古くはマッキンゼーの「7Sモデル」が示すように、最適な戦略は、組織構造、システム、人材、スキル、カルチャー(スタイル)、そして共有価値が整わないと持続的に実現し得ない。従って、もし企業がDigitalizationによって新しいビジネスモデルの構築に成功しても、それに最適な組織構造、システム(例えば人事システム)、最適なスタッフと彼らが所有するスキル、最後に新しいカルチャーを伴わなければ、新しい価値提供は持続せず、一時的な成功に終わってしまう。組織はある意味「形状記憶合金」であるから、またすぐにDX前の状態に戻ってしまう。
 しかし、企業活動に関わる要素を変えるのは容易ではない。大企業また伝統企業ほど、これがまた難易度が上がる。企業活動を支える諸要素、諸制度の相互依存性、ダイナミックな変化、企業規模が「もつれ」あって、変革がますます難しくなる。「デジタルトランスフォーメーションは技術の問題ではない」(『ハーバード・ビジネスレビュー』、2019年3月13日号)と言われるのも、まさにそのためである。この複雑なもつれを解くには、強いリーダーシップの発揮が求められる。そして、それができるのはCEOに他ならない。

デジタル変革は「CEOアジェンダ」

DXを阻む組織のもつれを解けるのは、企業のトップ(社長、CEO)だけである。経営トップの使命は、会社の抱える重要な経営課題(アジェンダ)を明確にし、優先順位の高いものから解決していくことである。解決にあたっては、ふさわしい人物を選び、リーダーシップの発揮を促す。もちろん、経営課題の中には、トップ自身がリーダーシップを発揮しないと解決できないものもある。それこそ、いわゆる「CEOアジェンダ」である。それは会社の未来を決する最重要経営課題と言ってもいいだろう。デジタル時代に競争優位を発揮すべく変革をリードすることは、まさにCEOアジェンダである。なぜならば、その実現にはビジネスモデル、ビジネスプロセスに留まらず、組織のさまざまな要素を変革しなければならないからである。新しい人材の採用や、彼らが大活躍できるように人事制度の変更も必要である。カルチャーも変える必要がある。部門間の壁も壊さないといけない。組織構造の改革も必要である。このような多方面に渡る大変革をリードできるのは、CEOしかいない。デジタル変革で成功しなければ自社に未来はない、という決死の覚悟で社長自身が取り組まないといけない。

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